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3話 妹の死

ผู้เขียน: 九重有
last update วันที่เผยแพร่: 2026-06-16 15:41:18

 妹の死について、私はこれまで幾度となく文章にしてきた。

 新聞記事として、取材メモとして、そして誰にも見せない覚え書きとして。だが奇妙なことに、それらを読み返すたび、そこに書かれている「妹」が、少しずつ違う。背の高さが変わり、声の調子が変わり、笑い方が変わる。まるで私は、毎回別の人間の死を悼んでいるかのようだった。

 妹は、あの町を嫌っていた。

 理由を問うと、彼女は決まって曖昧に笑い、「なんとなく」と答えた。その「なんとなく」の中に、私は何も見ようとしなかった。兄として、記者として、見るべきものから目を逸らす術だけは、身につけていたからだ。

 事件の夜、妹は一人で出かけた。

 どこへ行くのか、誰と会うのか、私は詳しく聞かなかった。聞かなかったのではない。聞く必要がないと思い込んでいた。

 夜更け、電話が鳴った。

 受話器の向こうの声は、妙に事務的で、感情がなかった。その無機質さが、かえって現実感を奪った。私は、何度も聞き返した。相手は同じ言葉を、同じ調子で繰り返した。

 ――沼へ続く路地で、女性の遺体が発見された。

 現場へ向かう途中、私は奇妙な既視感に襲われた。道順も、街灯の位置も、夜の匂いも、すべてが知っているように感じられた。だがその感覚に、理由はなかった。少なくとも、その時の私はそう思っていた。

 妹は、静かに横たわっていた。

 暴行の痕、争った形跡。警察はそう説明した。私は頷き、必要な質問をし、必要なメモを取った。泣かなかったわけではない。ただ、泣くという行為が、どこか他人事のように感じられた。

 奇妙だったのは、耳だ。

 現場に立った瞬間、私は強烈な違和感を覚えた。音が、足りない。虫の声も、風の音も、あまりにも控えめだった。その代わり、別の何かが、耳の奥でざわついていた。

 ――聞かなかったことにして。

 誰かが、そう言った気がした。

 妹の声だったのか、それとも――

 私は、その続きを考えるのをやめた。

 通り魔事件という結論は、あまりにも都合が良かった。犯人はすでに死亡。動機不明。再発の恐れなし。町は平穏を取り戻し、私もまた、日常へ戻った。

 戻った、はずだった。

 だが最近になって、思い出せないことが増えている。事件の夜、妹と最後に交わした会話。現場に着くまでの時間。

 思い出そうとすると、必ず耳鳴りがする。

 まるで、脳が意図的に拒絶しているかのようだ。

 私は、ある疑問を抱き続けている。

 なぜ、妹は一人で沼の方へ向かったのか。

 なぜ、私はそれを止めなかったのか。

 そして――なぜ、あの夜の「声」を、これほど鮮明に覚えているのか。

 妹は、何かを知っていたのではないか。

 そう考えた瞬間、胸の奥が、ひどく痛んだ。

 痛みは罪悪感によく似ているが、決定的に違う。

 それは、思い出してはいけないことを、すでに思い出しかけている者の痛みだった。

 私は、まだ知らない。

 だが確信だけは、静かに育っている。

 妹の死は、終わった出来事ではない。

 それは今も、私の中で、音を立てている。

 ――耳の奥で。

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